ゲレンデの喧噪から離れて、大自然の中に踏みだそう。降りたての雪を踏みしめる音だけを聞きながら、誰も滑っていない斜面を求めて森の中を歩く気持ち良さ。自然のままの山を滑る楽しさと、真冬のピクニックを合体させた遊び。そんなバックカントリーにチャレンジしてみよう!
取材協力:かぐらスキー場、K2 SKI、K2 SNOWBOARD
写真 / 林拓郎

解説/永井拓三(ながいたくみ)

日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド。ガイドカンパニー「TRIFORCE(トライフォース)」代表。新潟大学大学院で雪氷学を学び研究者として雪崩のメカニズムに取り組む傍ら、在学中からガイドカンパニー「TRIFORCE」をたちあげバックカントリーガイドとして活動。また理想のスノーボードを作りたいとして、オリジナルスノーボードブランド「VOLTAGEdesign(ボルテージデザイン)」を興す。

【VOLTAGEdesign】 http://www.voltagedesign.jp/

スキーの装備

バックカントリーに踏み出すなら、最初に考えたいのはどういった道具で歩くかだ。新雪はブーツのままでは埋まってしまって歩けない。そこでスキーは、スキーで歩くことを考えよう。ポイントは「ツアービンディング」を使うこと。このビンディングはつま先を支点にビンディングそのものが動くようにできており、歩く動きに合わせてカカトをフリーにできる構造になっている。

ゲレンデではカカトを固定して通常のビンディングのように扱い、歩くときにはカカトを解放してスキーで歩く。滑走面には「シール(クライミングスキン、あるいは単にスキンと言うこともある)」と呼ばれる滑り止めを取りつけるのも、スキーで歩く際の特徴だ。行動中の食事やアバランチキットを持ち運ぶため、バックパックも用意しよう。歩いていると汗をかく。ウエアは薄着なくらいでちょうどいい。
カカトの上がるビンディングとシールを用意すれば、たいていの雪の上をラクラク歩けてしまう。
スキー:K2 ウェイバック96、ビンディング:MARKER ツアー F12、シール:K2 クライミングスキン

スノーボードの装備

スノーボードはスノーシューと呼ばれるかんじきを履いて歩くことになる。歩くときにはバランスを取りやすくするためポール(いわゆるストック)を使う方がいい。スノーボードも行動中の食料や水、アバランチキットなどをしまったバックパックを背負う。

歩いている間、スノーボードはこのバックパックに取り付けておこう。たまに手に持ってハイクしようとする人もいるが、うっかりバランスを崩してスノーボードが手から離れてしまい、谷の底まで流してしまうというトラブルもおこりうる。スノーボードはバックパックに固定、が原則だ。

バックパックのサイズは、日帰りなら20Lくらいの薄いものがおすすめ。あまり大きなバックパックだと、スノーボードをくくりつけたときに安定しない。
スノーボード:K2 ターボドリーム。
スノーシュー:TUBBS フレックス VRT
ポール:K2 スピードリンク4

アバランチキットってどんなもの?

ビーコン、ショベル、プローブ。この3つを「アバランチキット」あるいは「アバランチセーフティキット」と呼んでいる。死に繋がることもある雪崩は、絶対に避けなければならないアクシデントだ。

しかし相手は自然現象。いくら注意を払っていても防ぎきれないことがある。さらにバックカントリーはゲレンデから離れており、救助を呼んでも到着までに時間がかかる。そこで、もしも雪崩に遭った場合には埋没した仲間を自分たちで掘り出す必要がある。

写真は左から、ショベル、ビーコン、プローブ。これらを使いやすくしまっておくバックパック。ビーコンは大まかな位置を見定め、プローブは雪に突き刺して感触で埋没者の居所を探り、ショベルは掘り出すためにある。アバランチキットは万一雪崩に遭ったとき、お互いがお互いを絶対に助け出すという信頼の証なのだ。
ショベルはハンドルとブレードを取り外してコンパクトに収納。使用の際に組み立てる。
ビーコンは電波発信装置。常に電波を発しており、雪崩に埋まったときにはその電波をたどって位置を探る。
ビーコンで埋没者の位置を大まかに探し当てたら、プローブと呼ばれる折りたたみ式の棒を雪に突き刺す。この手応えで、雪の下に埋没者がいるかどうかをさぐる。見つけたら、すぐにショベルで掘り出す。

ビーコンって何?

バックカントリーの装備の中でもトップクラスに重要なものが「ビーコン」。一見するとトランシーバーのように見えるが、これで話をすることはできない。ビーコンの正体は電波発信機だ。万一雪崩に埋まってしまったときのことを考えて、バックカントリーでは常に送信状態で身につけておく。

誰かが雪崩に埋まったら、全員がビーコンを受信に切り替えて電波の発信源を1つに絞る。その後で、扱いに慣れた人が受信状態のビーコンを使って発信場所を特定し、救助する。ビーコンをきちんと扱えるようになるには、かなりの訓練が必要になる。操作方法などはツアーに出た際にガイドさんに聞いてみよう。また、ガイドさんの扱いをよく見ながら、少しずつその扱い方を覚えていこう。
バックカントリーに出る際には、必ずビーコンのスイッチを確認する。これはオフの状態。
スイッチをオンにすると発信が始まる。万一電池切れになると役に立たない。毎回新品の電池を入れるようにしよう。
ビーコンが身体から離れてしまうと、捜索隊は埋没者を探し出せなくなる。そのためビーコンは最低でもジャケットの内側に専用のケースで装着すること。ポケットにしまうのは厳禁。雪崩の衝撃はジャケットやパンツをはぎ取るほどで、ポケットではウエアそのものが身体から離れてしまう可能性があるからだ。

ガイドさんと一緒に出かけよう

バックカントリーの安全を自分たちだけで確保しようとすると、訓練だけで何年もかかってしまう。ビーコンやショベルなど特別な道具の扱い方を教えてくれて、疲れない歩き方や道具選びのポイントをアドバイスしてくれて、現場では危ないルートに気を配って、レベルに応じて楽しく滑れる場所に安全に連れて行ってくれる。それがバックカントリーガイドという人たち。

ガイドさんと一緒なら安心して行動できるし、マナーも知識もガイドさんから学ぶことができる。山に慣れてないからこそ、初めのうちは先生についてもらおう。ビギナーこそ、ガイドさんに頼るのが正解なのだ。
道具の使い方も、ガイドさんと一緒なら細かく教えてもらえる。ツアーに参加すれば、ビーコンなどの高価な機器を格安でレンタルできる点も嬉しい。また、山に入るときは必ず「入山届け」を提出する。書き方がわかりにくいこの書類も、ガイドさんに聞けば簡単に記入できる。

[スキー] 歩けるビンディング!?

バックカントリーの醍醐味の1つは、自分の足で登ること。リフトに頼らず、筋肉で斜度を感じ取る。雪の斜面を登ることを「ハイクアップ」あるいは「ハイク」と呼んでいる。ハイキングのハイクと同じ言葉で、歩くという意味。

スキーでハイクアップをするなら、荷物が少なく歩きやすい方法をおすすめしたい。それが「ツアービンディング」と呼ばれるカカトの浮くビンディングの導入だ。これなら上り坂を歩いても足首に負担がかからず、らくな体勢のまま歩くことができる。またスキーを履いたまま歩けるので、重いスキーを背負う必要もない。このツアービンディングは次の項目で説明する「シール」とセットで使うことになる。

カカトを固定しているレバーを解放すれば、つま先部分を支点にしてビンディング自体が動くツアービンディング。最近のバックカントリーブームの中でも人気のアイテムだ。バックカントリー専門店でのレンタルなどを活用して、一度体験してみよう。
ツアービンディングはシールとセットで使う。バックカントリーなら、歩く斜度や使い方に合わせて長さ調節ができる、伸縮式のポールも使いやすい。斜度があるときはクライミングサポートを利用。カカト下にある器具を使うことで、ビンディンだけを水平近くに来イプ。ハイクアップ中の足首への負担を減らしてくれる。
ゲレンデではカカトは固定。歩くときはブーツを外して、レバーを操作、それでだけで簡単に固定を外して、ウォークモードへ移行できる。

[スキー] シールの取り付け

スキーを履いてハイクアップするときには、スキーの裏側に滑り止めを取り付ける。これが「シール」もしくは「スキン」と呼ばれている毛羽だったシート。シールの雪と接する面は、トップからテール方向に向かって短い毛が生えている。このおかげでスキーを前に押し出すときにはスムースに滑り、後ろに滑らそうとしたときには毛が雪の粒を捕まえてくれるのでとまってしまう。結果として滑りとめになる、というしくみだ。

シールの裏側は強力な粘着テープとなっており、スキーのソール部分に貼り付けて使用する。シールそのものは昔ながらのギアだが、装備を軽くシンプルにできるとあって近年注目を集めている。
シールをしっかり貼り付けられるよう、トップ部分にはシールのトップ側を引っ掛ける金具がある。端から粘着面を保護するシートをはぎながら、トップから丁寧に貼り伸ばしていく。
粘着部分が浮いていると、そこから雪が入ってシールが剥がれてしまう。しっかり押さえながら貼り付けよう。シールのテール側が剥がれないようエンドを金具で固定して装着完了。

[スノーボード] スノーシューを履く

スキーのように滑る道具を登る道具に転用できないスノーボードの場合、スノーボードを背負ってスノーシューでハイクアップすることになる。スノーシューは雪に埋まらないように広い面積を持たせた、いわゆる"かんじき"。ただし簡単に履けるようにシステムが工夫されている。

またスノーボードの場合、滑る時にはこのスノーシューを背負って降りてくることになる。そのため軽く、バックパックに取りつけるときもかさばらないように工夫がなされている。簡単に使えて、持ち運びも苦にならない。しかも練習ナシに誰でもすぐに使えるとあって、バックカントリーではもっともポピュラーなハイクアップ用具なのだ。
スノーシューの金具を解放して、ベースプレートの真ん中に足を乗せる。次にブーツ位置に合わせて、カカトのストラップを調整し、ブーツがずれないようにする。
「boa」と呼ばれるダイヤル式の締め付け金具を操作して、スノーシューを固定したら横着完了。両足を履くのにかかる時間は、合わせて数分。

[スノーボード] ポールの調整

街の中の感覚で考えると、歩くときにポール(ストックとも呼ぶ)を用意するのは大げさな気がする。しかし柔らかい雪の上をスノーシューで歩くと、意外にバランスを意識させられてしまう。何よりもいったん転ぶと、ふわふわと手応えのない新雪の上では立ち上がるだけでも体力を消耗してしまう。そこでムダな動きを防ぎ、身体を安定させることで安全性も確保できるポールが必要になってくる。

スノーボードの場合、滑る時にはポールはバックパックの中にしまうか、バックパックの外側に固定することになる。そのため、収納サイズがコンパクトになる伸縮式ポールが必須だ。
伸縮式のポールは使う時に自分で長さを合わせる。左の写真のようにヒジがここまで曲がるのはポールが長すぎ。左の写真くらいヒジがリラックスしているほうが、長い時間歩いても疲れない。
雪の上を歩くのは思っている以上にバランスが取りにくい。ポールはできるだけあった方がいい。また、ポールは短く縮められるものを選びたい。

[スノーボード] バックパックに板をつける

スノーシューでハイクアップする場合、スノーボードはどうするか? 正解はバックパックに取りつける、だ。バックカントリー用のバックパックはスノーボードを簡単に取りつけられるよう、専用のストラップを備えている。そのストラップを利用すれば手間もかからない。

気をつけたいのは取りつけ位置だ。上すぎるとスノーボードが揺れて歩きにくくなり、下すぎるとスノーシューがスノーボードに当たって歩きにくくなる。ちょうどいい位置を探し当てるまでは、細かい調整を重ねていこう。

またバックパックに必要以上の厚みがあると、取りつけたスノーボードが安定しない。なるべく薄く、ボディ全体にしっかりした剛性のあるものを。日帰りのバックカントリーツアーなら、容量20L(リットル)前後のものが使いやすい。
左の写真が正しい装着バランス。スノーボードはなるべく身体のラインと平行になるよう取り付けたい。右の写真は悪い例。ノーズ側が後ろに傾いてしまい、結果としてテールが足にあたって歩きにくい状態に。
スノーボードを取り付けるときは、バックパックに対してどのくらいの位置にするかが重要になる。ビンディングの下や中を通すなど、ストラップの位置を工夫してみよう。スノーボードをバックパックに取り付けるときは雪の上に寝かせて。右の写真の用に伏せたバックパックの上に置くと安定しやすい。

歩き出す前に

滑る時と歩いている時とでは運動量がまったく違う。そのため滑る時のウエアを着てそのままで歩き始めると、すぐに汗をかいてしまう。この汗は身体を冷やす原因となるため、バックカントリーでは汗をかかないことが大切。そこで、ハイクアップをする時には上着を一枚脱いでから、が大原則になってくる。

雪が降っているなら防水性の上着を着たまま、中間に着ているものを一枚脱ごう。それだけでハイクアップはずいぶん楽になる。同じように手袋も薄いものにして操作性を上げながら快適に。場合によってはビーニーも薄いものにするなど、全身薄着を心がけてハイクアップに備えよう。
ハイクアップはかなりの運動量。ウエアを脱ぐなど、滑る時よりも薄着になり、体温調節をしてから歩き出すように。標高が上がると気温が下がるほか、風が出てくることも。寒さを感じる前に着られるよう、脱いだウエアはバックパックの外側に固定しておこう。
滑走用グローブは暑すぎるうえ細かな操作がしにくい。ハイクアップ用に風を防ぐ薄い手袋がおすすめ。また、ゴーグルをしたままハイクアップすると曇ってしまう。歩くときはサングラスが便利だ。
歩き出す前に必ずビーコンのスイッチをオンに。きちんと電波を受信しているか、ガイドさんに確認してもらおう。携帯電話やスマートフォンが、万一の際にビーコン捜索を邪魔してしまうことがある。ビーコン使用時は、できるだけ電源を切るようにしたい。

[スキー] ポールの着き方

シールでのハイクアップにはコツがある。カカトに体重を乗せたまま、背筋をまっすぐ伸ばして歩くことだ。こうすればシールはしっかり雪面をとらえて、安定したグリップ力を発揮してくれる。

ところが、慣れないうちは身体を前屈みにしながらつま先に体重を乗せてしまう。こうなるとシールは滑ってしまって上手く登れなくなる。これを解決するのがポールを着く位置。杖のように身体の前で着くのではなく、身体の横、脚より後ろに着いて押し出すようにすれば、背筋が伸びて自然にシールのグリップもよくなるのだ。

右の写真のようにポールを前に着くと、体が前かがみになってしまう。するとつま先に体重がのって、シールは十分に滑り止め高価を発揮できない。シールで歩くときは身体の横にポールを着く、を忘れないようにしよう。
快調に歩いていても、気を抜いてつま先に体重を乗せてしまうと一瞬で滑ってしまう。シールの扱いには慣れと練習が必要だ。

[スキー] シールで歩く

慣れないうちはスキーで歩くと、意外にその重さが身体に響いてくる。その重さから逃れるには、スキーを持ち上げないことだ。ポイントは雪の上に置いたまま滑せるようにして歩く。感覚的にはスリッパのように、つま先に引っかけたまま歩く感覚だ。ただし、体重がのったときにはカカト荷重を意識しないと滑ってしまうので注意!

こうすることでスキーの重さをほとんど感じずに、スルスルと歩いていくことができる。スキーなら面積がある分、新雪の上でも沈みにくい。深い雪にも足を取られず、安定したハイクアップを楽しめる。
スキーブーツは登りで斜度が出てくると、左の写真のようにヒザが伸びてしまい歩きにくくなってくる。そこでクライミングサポートを使用したのが右の写真。左の写真に比べて全身がリラックスしているのがよくわかる。

[スノーボード] スノーシューで歩く

スノーシュー最大の魅力は誰にでも扱えるイージーさだ。スノーシューの裏側には金属製の歯を備えており、これが雪をしっかりとグリップしてくれる。おかげでどういう歩き方をしても滑るようなことは少なく、不安感を持つことはまずないからだ。

さらに重量が軽いため、長時間のハイクでも疲れにくい。スノーボード用のブーツの柔らかさもあって、歩行感覚に違和感を覚えることはないだろう。とは言え、足もとには今までなかったものがついているのも事実。もしも重さを感じるようなら持ち上げるのではなく、スノーシューを引きずるようにして歩くと長時間のハイクアップでも疲れにくい。
スノーシューにもクライミングサポートが装備されている。斜度が出てきたら利用しよう。

ガイドさんの説明をよく聞く

バックカントリー最大の楽しみは、手つかずのままの雪を滑ること! けれどそこにはいくつか注意しなければいけないことがある。もっとも避けたいのが雪崩。さらに不意の穴や雪面のクラックなど、うっかり落ちたりはまったり、も無視できない。

こういった危険性だけでなく、どういったルートで滑るか、何に気をつけるべきかといったポイントをプロの目で見て教えてくれるのがガイドさん。特に滑り出す前には、細かな注意点を教えてくれる。テンションを上げすぎてこの説明を聞き逃すことのないようにしよう。もしも聞こえにくいときには、聞こえないので、と一声かけて近づくなどしよう。

写真はこれから滑る方向を指し示すガイドさん。どの方向に何を目印に進むか、などを聞き逃すと、迷子になる不安を抱えたまま滑ることになる。せっかくのバックカントリーをフルに楽しむためにも、ガイドさんのアドバイスはしっかり聞くようにしよう。

ムリのないペースで楽しむ

ハイクアップで見られるのが、とにかく速く歩こうとしてバテてしまうケース。あくまでもハイクアップは滑り出すポイントまでの移動手段。速く歩くことよりも、滑る体力を残しておくことの方が重要だ。その意味でもハイクアップが速すぎるときに、ムリしてついていくのは禁物。先頭の人に少しだけペースを落としてもらおう。

決してムリはしないこと。滑る体力まで使い果たすようなハイクアップはしないこと。この2点を守れば、バックカントリーはグッと楽しくなる。
アウトドアを楽しめるランチなど、ご褒美になるイベントを用意しておくのも一日を楽しむ秘訣。

半分の余力で滑る

この意識はとても大切だ。ゲレンデのように整備されていないバックカントリーでは、常に危険を回避できる余力を残しておくことが必要になってくる。それはつまり、スピードを出しすぎないということ。スピードを出しすぎると危険回避ができなくなる他、ルートを間違ったり、小さなミスで転んでしまったり。こうして、小さなミスがあっという間に大きなケガに繋がってしまう。

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